忍者に憧れて山で50年修行したが、今度はNINJAに憧れて異世界でやり直す!
GAコンテストに備えていますが、開始は9/1。開始直後にもらえる星を皮算用して、コンテストが始まってから投稿する予定です。
しかし、今月はカクヨムの毎日更新キャンペーンが行われており、31日まで毎日投稿すれば500円だけ貰えます。たかが500円、されど500円。500円を貰うためだけ3話投稿する事にしました。
ということで、これもこちらに記録しておきます。過去の物はもう無くなったら無くなったでいいかな?
第1話 最後の忍者
ここは日本のどこか。人を寄せ付けぬ霊験あらたかな大樹の森。
そびえ立つは樹齢三百年、天を衝く巨木。その幹は十人がかりでも抱えきれぬ太さである。
その前に立つは一人の老人。人を寄せ付けぬ山に棲む彼もまた、只人ではなかった。
老人は片膝をつき、古びた刀の柄に手をかける。
刃は鞘の内。だが、周囲の空気までが張り詰めて音を無くす。
木々の葉がざわめき、己の運命嘆くかのように唸りを上げた。
「谷戸玄影流奥義・次元斬り――キエエエエアアアァァァッ!!!」
次の瞬間。
世界から、彼の姿が消えた。
ガガァァンッ!!!
刹那、雷のような閃光とともに空間が一線に裂けた。
ふわりと柔らかい風が吹き、揺られた巨木はまるでツルリと足を滑らせるかの様に倒れていく。
ズ……ズズ……
ゴオォオオオオン!!
大木は轟音を発しながら倒れた。
幹の断面は鏡のように滑らか。
斬ったというより、空間ごとその部分が消えたかのよう。
彼は巨木の向こう側、十歩ほど離れた場所に静かに立っていた。
振り抜かれた刃には一片の陰りもない。
「ついに成ったか……」
そう呟いた彼の顔は、やり遂げた自身を褒めるように微笑んでいた。
◇◆◇◆◇
儂は谷戸鉄人。忍者だ。
師はこの森。何も持たず、ただ忍者に憧れただけの儂に、全てを授けてくれた。
初めてこの森に足を踏み入れてから、もう50年ほどにはなるか。
儂はついに自分の憧れた力を手に入れた。
「ありがとう」
それだけを声に出して、森に別れを告げた。
力は得た。次は真の忍者として人の世の裏に生きるのだ。
それが儂の憧れた、「忍道」だから。
◇◆◇◆◇
「ふむ。50年振りの人里だが、それほど大きな変化は無いか」
道路は相変わらずアスファルト。車が走り回り、家々はひしめき合っている。50年程度で大きな変化は無いか。
道行く人々の服装も大きな差異は無い。
若者が何やら板に乗って移動しているのが微笑ましいな。儂も昔、スケートボードに乗ったことがあるぞ。
ただ、何かを手にして食い入るように見ながら歩いているのが不思議だ。
独り言を言いながら歩いている者もいる。何か最新の道具を使っているのだろうが、あれでは身を守れんだろうに。
町を歩いて見物して回る。今の儂はキョロキョロと辺りを見回すお登りの老人でしかないだろう。
だがこれは仮の姿。本当の儂は闇に潜み、影から人を救う忍者なのだ。
常に周囲に目を配り、困難にある人を見逃さない。
そのとき、視界の隅、商店から出てきた老婆が歩道の縁でつまずいた。
好機!――ではなくて危ない!
シュバッとお助け!ワシの前では怪我などさせぬ。老婆の体を支えて危機から救ってやった。
「怪我はありませんかな御婦人」
「へあ?あ、ありがとうございます」
「なに、気をつけられよ」
儂は何事も無かったように背を向けて去る。
(あ~こういうのがやりたかったんじゃ~~!)
実に心地よいな!山では無かった人の触れ合いというやつじゃな。
しかし足らぬ。50年の修行を埋めるにはもっともっと活躍……ではなく人々を救わねば意味がない。
かつて憧れた忍者。紙芝居で謳われた忍道。それを我がものとして示すのだ。
もっとも、ふらふら歩いているだけでその様な場面を発見できるなどとは考えておらぬ。そのための修行も済ませておるわ。
儂は細い道に入り、周囲の目がないことを確かめてからチャクラを高めた。
「谷戸流忍法・邪気探眼の術!」
体内のチャクラを練り上げ、一気に体外へと放出する。それは薄く薄く……わずかに空気を揺らし、悪しき気配を察知する忍術だ。
「むっ!巨悪の気配!やったぞ!じゃなくて許せぬ!」
距離は半里、数は五、襲われておるのはおなごじゃな。
大勢で女子を襲うなど、死を持って贖う覚悟はあろうな。
鍛えた脚を使い、十を数える間に半里を埋めた。ここまで鍛え上げたのは全てこの時の為。人の世の乱れを影から正し、人知れず悪を討つ。それが儂の憧れた忍道だ。
走る先には少女を羽交い締めにする男ども、そしてそれに抵抗して身を捩る女子!儂の前で無体は許さぬ!
「谷戸流体術・永楽腰砕き!」
男どもの後ろから強襲し、その腰に一指禅拳を打ち込んだ。
「なんっ!あがあああああぁぁっ!」
「なんだっ!どうした!」
「ジジイが襲ってきた!?」
馬鹿どもが騒ぐ間に次々と腰を砕いていく。
一指禅拳は人差し指の関節を少し前に出して急所だけを砕く拳。正確無比な衝撃が奴らの骨盤を粉砕した。
意識を保てぬほどの激痛が襲い、半年はまともに動けまい。殺しても構わぬが、今は己が罪を悔いるがよいわ。
「あ、あの」
「うむ。少女よ、行くがよい。我が名は明かせぬ」
「そうじゃなくて!おじいさんここにいたら大変だよ!?こっちに来て!警察が来る前に!」
なんでワシが官憲を恐れる必要があるんじゃ?
そう考えていたら、おなごに強く手を引かれてしまった。振り払って怪我でもしたらいかんし、仕方ないのぅ。
ついてはいくが、これではワシの美学が泣いとるんじゃが……。
50年ぶりの人里。それは少しばかり以前とは違っているようだ。
悪を挫き、己の忍道を貫く。それが守れるのか、少しだけ不安になった。
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