中編投稿テストの為の書き溜め⑥ 

小説で稼ぐ

15話まで完成済み、後10話積んで行きます。
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家に帰って王仁のダンジョンについて調べる。
王仁ダンジョン、下級の中では出てくる魔物が強いダンジョンだ。ここの魔物はゴブリン。下級ダンジョンは全国に100を超えて存在し、ゴブダンジョンはもっともポピュラーだ。
ゴブリンの中でも種類が別れていて、鎧を装備した前衛の他、槍を使うもの、弓を使うもの、魔法を使うものもいる。これらが2~6体程度の集団で動いているらしい。
かなり手強い様に思えるが、ゴブリン自体は身長120cm程度と小柄で、体力も弱いので力押しが効くとのこと。また知恵も使わないので単純に戦力で上回る事が出来れば安定して狩れるとされていた。
中級以上のダンジョンだと罠を仕掛ける場合があるし、隠れたり連携したりと別物だそうだ。
色々情報を集めた俺の結論としては「盾役が大事」という事。
一番近い人間を襲ってくるので盾役が前に出ていれば後衛は自由に動ける、耐久も無いので遠距離攻撃で処理していけばいいだろう。

「盾役は俺だな!」
覚えたばかりの【防御】が光るし、蓮が斬撃を飛ばせると言っていたから相性はバッチリだ。ちょうど良すぎるな、玲司は俺達のスキルを聞く前に複数候補を頭に入れていたのでは?
咲耶といいんちょと玲司はまだレベルアップを経験してないから何か武器を用意しないとな。またダンジョン前に売ってるんじゃないか?
ちょっと偵察に行くことにした。中には入らないよ…たぶん。

王仁のゴブダンジョンは下級の上位だけあり、葛の葉の狸ダンジョンの様な浮ついた雰囲気は無かった。ダンジョンから引き上げてきたパーティを見かけたが、みんなしっかり鎧を着込んでいた。後衛は軽装備なイメージなんだが?まさか全員前衛なんだろうか?
金属鎧を売っている店があったのでついでに聞いてみる。

「こんにちは、これからここに潜る準備をしてるんですが、おすすめ教えてくれませんか」
「えぇぇ、お客さんまだ高校生くらいじゃないの?ここ危ないの分かってる?」
そっちもまだガキじゃねぇかと言いたい。中学生女子にしか見えん。
「クランの参謀が選んだのがここでして、下見と情報集めしてるんですよ」
「ふーん、まぁいいけどさ。ここに潜るなら鎧が必須だよ。革鎧でもいいけど手足首頭もしっかり守る必要がある」
確かにみんなそうだった。ゴブリンの攻撃ってそんなにきついの?

「あの、ゴブリンの攻撃ってそんなに強烈なんですか?後衛はあまり狙われないって聞いたんですが」
「攻撃力は弱いよ、後衛を狙う知恵も無い。でも矢を撃ってくるからね、狙いも上手くない。きちんと目視出来ていない所から突然矢が飛んでくるんだよ?運が悪けりゃプスっと刺さっておしまいってわけ」
なるほどたしかにそうだ。避けきれない前提で鎧を着るわけね。でも、お高いんでしょう?
「後衛用なら樹脂製のアーマーでも弓なら防げるよ。おすすめはチェインメイルとフルフェイスガードとネックガードレッグガードに防刃手袋と靴のセットだね。全部で55,000円から置いてるよ。樹脂製のアーマーは軽いけど間接は守れないからね、運が悪けりゃ刺さるよ」
ふむ、意外と安いのでは?昔の全身鎧は数百万円と聞いたことがある。お手頃で助かります。

「あんた見たところ前衛だろ?剣や槍を想定するなら金属の方が良いよ。攻撃をズラして鎧の表面を滑らせるんだ。樹脂やチェインだと刃が立っちゃう事が多いし衝撃がモロに来るよ」
ふむふむ、やっぱり男なら金属鎧だよあなぁ!黄金の鉄の塊を装備すれば皮装備のジョブに遅れを取るはずがない。
「金属鎧は高いからね、全身鎧と下履きのセットで250万円からだよ」
「たっっっか!!!」
車買えるじゃん!免許ないけど。
「ここは中級ダンジョンへ挑戦する前の修行の場でもあるからね、専業探索者への登竜門だよ。装備を買う金も無いお子ちゃまには早すぎってこと」
ぐぬぬぬぬぬ、くやちい。

「一応70万用意してます。中古とかありませんか?戦えたらいいですから」
「随分多いじゃないか、それだけあるなら初心者用のダンジョンに行けば楽ができるよ」
「初心者用ダンジョンで稼いできたんですよ、それでレベル上がって防御系のスキルを覚えたんです」
防御系っていうか【防御】だけど。
「へぇ!そりゃ見くびって悪かった。また少年が遊びに来たのかとおもっちゃった。うん、そういうことならお姉さんがいいのを見繕ってあげよう。中古の良いのがあるんだよ、調整してあげるからこっちに来な」
「あざま~す」
お姉さんには見えないが突っ込まないぞ、かあさんの例もあるしな。女性の年齢には何も口出ししないのが正解のはずだ。

「ほらこれだよ!かっこいいだろう?」
奥に入って見せられたのは真っ黒でやたらごつい鎧だった。

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「どう?カッコイイでしょ?」
「めちゃめちゃカッコイイじゃないっすか!!」

イイネ!まず黒というのがいい、黒い戦士って感じ?闇属性的な?ダークヒーローみたいな?すごくイイ!
更にこのゴツさがイイ!肩の部分からは角みたいなのが突き出ているし、篭手には謎の鋭い刃?トゲ?が腕に沿うように付いる。兜は口元まで完全に覆っていて目の部分は格子状のガードと完全に覆うバイザーを分けて上げ下げ出来るようになっている。全体的に大きく分厚く威圧感があり、良くわからない装飾がロマンを掻き立てる!指の部分までしっかりと黒で統一された重鎧!Dark Knightsって感じだ!!

「うんうん、少年なら気に入ってくれると思ったよ。これは注文を受けて私が作った自信作なんだけどね、折角作ったのにすぐに返品されてね、断ったんだけどゴネるから仕方なく安く買い取ったんだ」
「え?何か問題があったんですか?」
「いやー、なんか見た目が?感性が合わなかったっていうか、やり過ぎたっていうか。それと結構重くなっちゃってね。……角の部分とか」
「ええ?最高じゃないですか?」
「う、うん。そうだよね最高だよね。少年は良く分かってるよ」
こんなにカッコイイ鎧なのに何が駄目なんだ?変な人もいるもんだ。

「これは本当に良い物なんだよ元は!使ってる金属も魔石を消費してウーツ鋼に五重炭素を練り込んだやつで、硬くて重くて熱も湿気も通さないんだ」
ふむ、硬さで攻撃を防ぎ、重さで飛ばされず、火も水も恐れない完璧な鎧ってことだな!すごい!

「それでこの鎧なんだけどね、全身鎧だし、本当にお金かかってるから……、えーと、今ならこれがたったの300万円!」
「えっ!たかっ!」
「だったんだけど、中古だし200万円なんだよね!」
「あの、予算70万なんですけど」
「あーそっか、いや、んー、分割でもいいよ?」
「俺まだ未成年ですし、ちょっと高いかなって」
まだ初心者ダンジョンしか行ってないのに装備で借金は駄目だろ。

「分かった、じゃあ仕方ない、いや、そうだな、今は70万でいいから後払いで130万だ!」
えぇぇ……、なんか必死過ぎて怪しくなってきたぞ。これ大丈夫なのか?もしかしてボッタクリとか?
「あ、その顔は疑ってるな?物は本当にいいんだよ!ちょっと扱いにくいだけで」
クッソ怪しい。駄目だろこれ、冷静に考えると角とかいらんし。
「分かった!分かったよ!この盾もつけてあげるよ!お客さん上手だねぇ、この盾は何も問題ない普通の大盾だからね、これだけでも20万はするから。これをセットで70万!後払いで150万!」
普通に20万増えてるじゃないか。
「この盾は問題ないって、こっちの鎧は問題あるって事なんじゃ?」
「うっ!うっ、うぐぅっ」
駄目みたいですね。

「この鎧はね、とあるボンボンに依頼されて作ったんだけどさ。硬くて粘りのある重い金属で分厚く作ったもんだから重すぎて動けないんだと」
そりゃそうなるだろ。
「顔以外はしっかり密閉されて熱も通さないんだけど、装備してる本人の熱と蒸れが逃がせなくて…、でも仕方ないでしょ?一方通行な排気なんて滅茶苦茶高額になるんだよ?」
威勢の良かったお姉さん(?)はしょんぼり萎びれてしまった。要するに使い手のことを考えずに作ってしまって返品されたって事ね。

「だけど物は本当にいいんだ、下級ダンジョンならオーバースペックもいいとこ。これがあればゴブリンの矢どころか槍も魔法も関係ないよ」
過剰スペックは褒められないのでは?まぁそれはそれとして気になっていることがある。俺の【防御】スキルだ。
防御行動に補正がかかるって事だが、重い鎧を装備するのは防御行動に入るのか?ダンク職用のスキルと考えれば鎧や盾の扱いは含んでいる可能性が有る。
「お姉さん(?)、一度着用してもいいですか?」
「っ!あぁもちろん良いよ!気に入ったら買ってね?」

自分では付け方が分からず、お姉さんに付けてもらった。本当は鎧下などがあったほうが良いらしいが、お姉さんいわくこの鎧なら着心地さえ良ければ大丈夫とのこと。
肘等の可動部の内側は金属リング・樹脂・稼働する金属板で守られ、指は鎖帷子みたいなグローブを嵌めてから刺々しい篭手で指まで覆う。手首も指も全部リング・樹脂・金属板で加工されていて本当に良いものだと感心した。
付けて貰う時に距離が近くて緊張してしまいました。だってぼく中学生だもん。

「どうだい少年?強くなった感じするだろう?」
どうだろうか、目の部分のガードで視界は阻害されるし、バイザーは濃いサングラスみたいで暗い場所だときつそう。だけど。
「凄く動きやすいですよ!何も付けてない時より快適です!」
どうやら【防御】の効果がでているみたいだ、重い鎧なのに羽の様に軽く感じるしすごく快適だ。

「ほ、ホント!?じゃあ300万でお願い!後払いでいいから!!」
「なんで上がるんだよ!あ、いや上がるんですか。おかしいでしょ」
「頼むよ少年、それには素材だけでも300万以上かかってるのよ。注ぎ込んだ技術と手間もあるし元値は1000万だったんだ。扱えるなら最高でしょ?ね?」
「いやいや」
「いやいや」

長時間の交渉の結果、60万支払って鎧一式と大盾を購入し、残り250万は俺が稼げたら払うという事になった。稼げたらってなんだよと思うが、折角作った品を使ってもらいたいという気持ちは本物だったらしい。彼女が言うにはこの装備があればゴブリン虐めて払えるでしょとのこと。納得して購入したし安くしてくれたのは分かってるけど、予算を大幅に超える物を上手く買わされてしまった。油断してるとまた何か買っちゃいそう。
鎧は俺に合わせて微調整してくれるというので預けて帰った。

これで俺の準備は完璧だな!

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話し込んだせいで帰宅時間は21時を回ってしまった。
かあさんはダンジョン関連で遅くなってもちゃんとご飯さえ食べれば何も言わない。俺ももう中3だから多少はね?連絡無しで夜中になるとお小言もあるけどさ。

「咲耶~、土曜の朝から王仁のゴブダンジョンにPTアタックになるんだけどいける?」
風呂上がりの咲耶を捕まえる事に成功した。ちなみに8歳の平太はかあさんと寝室だ。
「ゴブダンジョンか、兄は行ったことあるのか?」
「いやない、でも今日ダンジョン前までいって色々聞いてきたぞ。ゴブダンジョン攻略のための装備も買ったんだ。そうだ、いい店があったから明日にでも一緒にいかないか?一人で行くのはちょっと勇気がいるんだよ。今回は奢ってやるからさ」
俺はばっちり揃えたけど咲耶の分も揃えなきゃいけない。その事に気づいて手元に10万円残したのだ。
「ふむ、そうなのか。そこまで言うなら兄に付き合ってやるのもやぶさかではない。付き合おう」
なんでそんな偉そうなの?まぁいいけど。
「それじゃ明日な、遅くなるから学校終わったらそのまま行こう」
「うむ、いや。やっぱり一度帰って駅で待ち合わせしよう」
「え?なんで?」
「兄よ、私にも準備があるのだ。兄も一度着替えてから行くように。制服でフラフラ出かけるのはよくない」
へ~い。そんなもんかね?

翌朝。
「おはようセリナ」
「おはよ鉄平」
ちょっと重苦しく感じるようになった登校時間。今朝は咲耶は先に行ってる。何故こうセリナと被っちゃうのか。以前から微妙な間があったのに最近は更に距離が離れた気がする。

「ダンジョン頑張ってるの?」
「あぁ、狸ダンジョンは卒業して週末からゴブダンジョンに行くんだ」
「そう」
「うん」
「ゴブダンジョンは弓対策が必要らしくてさ、みんなしっかり鎧着てたよ。やっぱ初心者ダンジョンとは違うよな」
「そうなんだ」
「あ、うん。危ないよな」
「うん」

玲司~!玲司来て~!
「昨日鎧買ったんだけどさ、1式で200万もしたんだよ。でも凄くいいもので、足りない分は後払いでいいって言うから思い切って買っちゃった」
「それ大丈夫なの?」
「俺も最初不安だったんけど、ちゃんと話聞いたら大丈夫そうだなって。鎧は本当に良い物だったしな。調整もお願いしてるし今日も顔出す予定」
「んー、それ私も一緒に行っていい?鉄平だけじゃ危ない気がする」
「あぁいいぞ、今日は咲耶の鎧を買う予定だから一緒に行こう」
「………咲耶ちゃんも?」
「あ、ああ。スキルの話ししただろ?身を守れるくらいまで一緒にレベル上げようって話になって」
「そう」
「あ、あの、今日はやめとく?」
「なんで?私邪魔かな?邪魔なら遠慮するけど」
「そんなわけないだろ!楽しみだなぁ!」
「じゃあ帰って着替えたら迎えに行くね」
「はい」
はいじゃないが。

その後セリナは玲司を見つけて駆けていった。なんなの。
玲司に相談したい事もあったが後にしよう。

「蓮、おはようさん。聞いてくれよ俺鎧買ったんだよすげぇカッコイイ重鎧」
「おう。【防御】に合わせたのか。俺は鎧は動きにくくなるから嫌だな。蹴りも出し難くなるだろ?」
【襲爪】ですね。かっこいいスキルすごいですね。
「ゴブダンジョン調べてないのか?通路の奥から矢が飛んでくるからみんな鎧で対策してたぞ」
「なに本当か。飛び道具は面倒くさいな」
「昨日王仁まで行ってきたんだよ、先輩探索者達がみんな鎧着てたし店の人にも勧められた」
「ん~」
考え込んでしまった。そんなに嫌なもんかね?鎧カッコイイだろ。
「放課後に妹の装備買いに行く予定だから一緒に行くか?店の人に聞いたら何か良いものがあるかもしれないぞ」
「そうだな、そうするか」

折角だし玲司といいんちょにも声かけてみんなで装備の相談するか。
こういうのも探索者パーティって感じでいいよな。

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「ただいまー」
「おかえりなさい、咲耶ちゃんはもう出たわよ。あんまり待たせちゃダメよ」
咲耶に言われて少し時間を潰して帰ってきた。一緒に行かない理由は謎だが聞かない。並んで歩くのが嫌とか言われたらどうする。

「あぁ、セリナが迎えに来るんだ」
「え?………昨日良いお店を見つけたけど1人じゃ入りにくいから咲耶と一緒に行くのよね?」
「うん、色々相談に乗ってくれて装備も買ったんだけどさ。商売上手だから俺1人だと余計な物も買っちゃいそうだから、パーティのみんなを誘って装備の相談に行くんだ」
「………」
「とりあえず着替えとくよ」
適当な私服に着替えてから自分の部屋でぼけっと座って待った。そういえばダンジョン行くようになってからスマホ触らなくなったな。ダンジョンの中じゃ電波が届かないしスマホが無いことに慣れた。ゲームやってるよりダンジョンの事考えている方が楽しい。早くダンジョンもぐりて~よ~。

「行きましょ、咲耶ちゃん先に待ってるんでしょ」
セリナが迎えに来て一緒に駅に向かう。随分機嫌が良さそうだ。セリナはちょっとコンビニまでって感じの雑な服装だった。普段はもっとビシっと決めるタイプなのに珍しい。
「セリナは探索装備の知識あるのか?今日行く店は面白くないかもしれないぞ」
「今日調べておいた。鉄平の買った装備を見るだけだしね、下級向けの防具は樹脂製のアーマーで全身10万円ちょっとが普通らしいよ」
それは店の人も最初に紹介してくれてたし問題ない。
そんな話をしながら駅に歩いた。朝はちょっと変な雰囲気だったけど、いつもは話しやすい良いやつだ。ニコニコと機嫌が良い様子でこっちも気分が良くなる。一緒にいて楽しいやつってのはこういう事だよ。
「あ、ちょっと電話するから先に行ってて。すぐ追い付くから!」
と思ってたら離れてしまった。人気者は忙しいのう。

駅に着いて咲耶の格好に唖然としてしまった。
「あの、咲耶さん?なんで和服?」
「兄よ、いま来たとこだぞ」
いや家から着てきたでしょ。和服を身に着けた咲耶は時代ドラマから飛び出してきたかのようだ、姫カットで姿勢も良く着こなしもばっちり。どこぞの姫か?嫁入りでござるか?
「兄、兄も似合っているぞ」
「いや俺はいつも着てるやつじゃん」
まぁ似合ってるしいいか。今日はみんなと顔合わせだから気合入れてきたのかもな。ん?顔合わせするって言ったっけ?

「お~い鉄平、待たせたか?」
蓮が声をかけてきた。玲司といいんちょも一緒だ。これでクラン勢揃いだな。
「いや、今来たトコだよ」
「なっ!えっ!?」
「咲耶ちゃん可愛い!これ着付けとかするやつ?すっごい似合ってる~!」
「この子が鉄平の妹か。水島玲司だ」
「俺は雲野蓮、レンと呼んでくれ」
次々声をかけられて慌てたのか、珍しく目を真ん丸にして慌てている。いつも澄ましているだけにちょっと面白い。
「もう集まってたのね、遅れてごめんなさい」
セリナも追いついた。何故かにんまり笑顔だ。良いことあったのかな。
「あら、咲耶ちゃん随分気合の入った格好ね?探索用の装備を見に行くんだから動きやすい格好のほうが良かったんじゃない?。まだ1年生だからお買い物ではしゃいじゃったのかな?」
「なっ!なっ!なっ!」
にやにやと口を斜めにして煽るセリナ、目を見開き顔を真赤にして言葉の出ない咲耶。オラすっげぇ悪い予感がするぞ。

爆発寸前かと思われた咲耶は突然スンとなってみんなに挨拶をした。
「水島様、雲野様、はじめまして。社咲耶と申します。松原様、ご無沙汰しております。いつも兄がお世話になりありがとうございます。これからはわたくしもクランの一員として、よろしくお願いいたします。」
「あぁ」
「そんなに丁寧じゃなくていいぜ?よろしくな」
「咲耶ちゃんはしっかりしてるわね!社くんも見習いなさい」
「くふっ!ぷくくくくくっ!」
やめなさいよ。
咲耶は澄まし顔のまま両頬からこめかみまで続く太い青スジを見せていた。

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「しょうね~ん、お客さんを連れてきてくれるとはやるじゃないか。お姉さんがハグしてあげよう」
「いやいいですから。昨日のやつ出来てますか?」
そういうのは2人の時に頼むぜ。まずは装備をみんなに見てもらって、それから全体のバランスを考慮して個人の装備を決めていくらしい。
俺が先走って装備を買った事については怒られてしまった。そういえばクランで資金集めて装備も買うって言ってたね。みんな最初は自分で買うが、前衛用の高価な装備を個人の金で買うなと怒られた。すまん、黒鎧でテンションあがってたんだ。

セリナを含む3人でバックヤードに入り、また装備をつけてもらう。これ一人でやる練習しないとな。
「出来れば誰かにやってもらう方が簡単だけどね」
手際よく作業しながらそんな軽口を言ってくるが、これやってもらうのは近くて無理っす。作業を良く見てなるべく覚える。
「どうだい?動きやすくなっただろ?」
おぉ、これは感動だ。元々【防御】の効果で動きに問題はなかったが、調整された事で余計な遊びがなくなって一体感が増して、鎧の分だけ自分が大きくなったように感じる。
「これ、角は何のためにあるんですか?腕のトゲは?重さは何キロ有るんですか?」
セリナくん、君にはこの良さがわからないのかね?この角はだね・・・体が大きく見えるから獣がびびるのだ。腕のトゲは・・・う、うでを握られないようにとかだな、匠の気遣いなんだよ。
「あぁそれは装飾だよ」
ですよね!凄くカッコイイからこれでいいんだ。
「重さは250kgくらいあるんだけど、中級上位の前衛探索者ならこれくらい平気だよ。この鎧はそれくらいの性能があるのに着心地を上げてないってだけさ」

「それで300万円ですか…」
ペタペタ、さわさわ、なでなで。
「魔法で加工したらそれだけで1000万は上がるからね、扱えるってなら最高の品さ!」
バシンバシン。
実は鎧の表面を触られている感覚がしっかりあるんだよね。こもれスキルの影響か。痛いとかじゃ無いんだけど、分厚い皮膚を触られているような不思議な感覚だ。女の子2人に挟まれて撫で回されるのはなんていうかあの……。

「みんな見てくれ!これが俺の新装備だ!」
「なんだそれは」
「動きにくそうだな」
「兄、もっと真面目に考えろ」
「すごくかっこいいわ!」
はぁ、咲耶はともかく男2人の反応にはがっかりだね。君たちにロマンは無いの?このごつい鎧にトキメキを感じないなんてどうかしてるよ。
それに比べて流石はいいんちょ、やはりいいんちょしか勝たん。
「いいだろう?触っていいぞいいんちょ、トゲは気をつけてな」
他意はない。ひんやりしてすべすべツルツルでキモイ良いぞ!
「それより私達の装備を考えましょ、弓矢対策だけならアーマーだけでもいいって聞いたんだけど」
「ああ、殆どの場合はそれで守られるし、技術があれば受けられる程度の攻撃しか来ないよ。ただ顔や首に当たって死ぬやつもいるから自己責任だね」
「し、死んじゃうんだ」
いいんちょが顔を青くしてしまった。狸ダンジョンの様に蹴り飛ばして進む初心者ダンジョンとは違うんだ、魔物は探索者を殺すためにパーティを組んで武器を装備している。下級とは言え甘な事を考えていたら殺される。カッコイイ鎧をナデナデして気分を落ち着けたらどうだ?

「松原、ここはしっかり装備を整えてから挑むぞ。生き死にを意識して貰う為にあえて下級上位を選んだんだ、甘えは捨ててくれ」
玲司の言葉に頷き、それぞれ装備を選んでいった。

「兄よ、ここは奢ってくれるんだったな」
Hey、笑えよGirl。ところで和服で細かい採寸出来るの?

―――――――――――――――

全員が装備を選んだ。

咲耶といいんちょは店長オススメ装備、チェインメイル+フルフェイスガード+ネックガード+レッグガード+防刃手袋と靴。咲耶の分はなんとか予算内で収まった。

玲司は鉢金+防刃フード+防刃ベスト+レッグガード+靴+腕につける小盾、それと指貫きグローブを選んだ。グローブを選んだことにはザワッとしたね。防刃フードは首まで覆う目出し帽みたいでかなり間抜けな見た目に見えたんだけど、鉢金をセットにしたら忍者っぽくてかっこよくなった。これはファッションセンスと言って良いのか?

蓮が選んだのは軽い樹脂製のアーマー、更に金属製のガントレットとレッグメイルだった。ガントレットの指部分は皮製。頭防具は嫌がっていたが玲司が自分と同じものを付けさせてた。金属装備は高額だから蓮も狸ダンジョンの稼ぎは使い果たしたんじゃないかな?

俺は借金もあるわけだが、とりあえず今日の払いは足りて安心していた。
「それじゃ武器だな」
ん?武器?武器ね……、狸ダンジョンでは蹴り飛ばして終わりだからすっかり忘れてた。そうだよゴブリン倒す武器が必要だったわ。
「私と咲耶ちゃんはボウガンでいいでしょ。スキル覚えたら変わるかもしれないけどね」
「俺はいらねぇよ、こいつで蹴り飛ばす」
「俺もいらん、ナイフは持っている」
「俺は剣かなぁ、こんなゴツい鎧でナイフとかボウガンは無いよな」

ひとまず女子用のボウガンを見せてもらった。相手は身長120cm程度の小柄なゴブリンなので小型でいいとのこと。
「長く使うつもりじゃないならレンタル屋があるから借りた方がいいよ。メンテナンスの道具も必要だね。矢が切れたら帰る、弦が切れても帰るって連中が多いよ。使い続けるなら購入して自分で覚えるほうが良いけどね」
1回1日で1000円程度らしい、矢は使い捨てで50円。随分安く思うがそれだけ人気なんだろう。

「んで少年の剣なんだけど」
チャキーン!剣を掲げようとしてバランスを崩してずっこけた。
剣舐めてました。下級上位クラス用の片手大型剣、重さ8kg。これにはスキルも反応せず、重すぎてとても扱えない。
一応軽い片手剣であれば1.5kg程度からあったんだけど、そこはやはり探索者用。人間同士の戦闘用ではなく、魔物相手に日常的に使用するのだ。対人間であっても毎日使ってたらすぐ折れちゃうと思うよ。
小型剣や短剣なら丈夫で軽い物もあるけど、このデカイ鎧で短くて薄い剣使うの?うっわかっこわる!ないわー、それは俺のロマンに反する。
しかも剣ってすげぇ高い、今持ってる片手用大型剣で200万。両手大剣だと350万から。車の値段やん。探せば安物の剣も売ってるだろうけどさぁ。やっぱり自分にあった物を使いたい。

「ダメだね、まぁ盾で叩けば良いんじゃない?盾術のスキル持ちは攻撃もするらしいよ」
ほう、盾で攻撃ね。ぶっ叩くくらいしか浮かばないんだが?
「こっちの盾はバネ式で杭が飛び出すよ、盾職がスキルを使って集団を押し止める時に地面に刺すんだよ。これで殴ったら強烈だろうね。小振りのカイトシールドなら側面や底で殴るのはよくあるよ」
俺が購入したのは体が半分隠れるサイズの緩いカーブを描く四角い大盾だ。殴れなくは無いが鈍重になると思う。
「少年はスキルで盾が使いやすいんだろ?だったら小さ目のカイトシールを増やして盾二枚持ちでいいんじゃないかい」
両手盾か、どう考えてもネタ枠である。重鎧を着て左手に大盾、右手に短剣か小さい盾。どっちがマシだろうか?どっちも駄目に思える。やっぱりそこのポジションはバスタードソードとか短槍だろ。
イメージしてみよう。
ゴブリン達の魔法と矢を弾き、突きこまれる槍を盾で受け流す俺、ゴブリンの体が泳いだ隙に短剣で攻撃!MISS!攻撃は届かない!
ゴブリン達の魔法と矢を弾き、迫りくる剣をモノともせず受け止める俺、右手の小さい盾で殴る!HIT!ゴブリンは尻もちをついた!
「あかんでしょ」

悩んだが答えは出ず、そもそも金が尽きているので保留となった。コンバットナイフは持ってるしな。レベルが上がれば身体能力も上がるので、当面はこれでやっていく事にした。

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とりあえずこれで全員の装備が決まったわけだ。武器の更新は咲耶といいんちょがレンタルボーガン、他は無し。ゴブダンジョンの注意点である弓矢対策は出来た。
全員の装備を見せ合う。俺だけカッコよすぎて悪いな、許せ友よ。

「ところで鉄平、その鎧でバスに乗るのか?」
え?ん?そういえばそんな人見たこと無いぞ?
「1畳くらいの物置レンタルは探索者協会でやってるよ。着替えのロッカーも必要だろうし契約しときな。整備を受けるならウチで預かれるよ。簡単な手入れだけで3000円、修理は別料金、少年の鎧は20倍だね。ゴブリンの魔石が1つ1万円で売れるから、1PT倒せば賄えるでしょ」
「高い!20倍ってなんでそんなに!?」
「その鎧は炭素を吸収するようになってるからね、特別な薬剤で整備すれば小さい傷が埋まるんだよ。ちょっと動かすだけでも重労働だし預かりの保険も考えるとね。他の装備も手入れすれば長持ちするし信頼性も保てるよ。まぁ自分で道具揃えて覚えるのも悪くないんじゃない?」
ぐぬぬぬ。稼ぐ為に稼いだ金を注ぎ込むのが探索者の宿命。下級の下位と中位を飛ばしたので資金が苦しい。

「社くん、預けてちゃんと整備してもらいなさい。わたし達はまだ学校があるんだから、今は学校と探索に集中しなきゃだめよ」
いいんちょの言い分は分かる。だけど資金がなぁ、うぅん。
「まぁ今日のところは無料で預かってあげるよ、次回までに考えときな。ウチで預かるなら着替える場所もあるからね」
「ありがとうございます、今度の土曜日に受け取りに来ます。それじゃ着替えましょ」
「ちょっと待ってくれ、折角だしちょっと覗いていこうぜ」
いいんちょの声に蓮が待ったをかけた。

「蓮、探索は次の土曜だ。そう決めただろう」
「けどよ、ここまで来て装備も身につけてるんだぜ?1.2回試したら問題も見つかるんじゃないか?」
「準備や下調べの時間も考慮して土曜日にしたんだ。不安ならそれまでに調べておけばいい」
蓮の言い分はもっともだが俺としても折角だし見学していきたい。やはり俺達と玲司では積極性に大きな差異を感じる。

「俺も見に行ってみたい。というか鎧の調子を確かめたい。少し討伐して小遣いもほしい。俺達はもう狸ダンジョンじゃ稼げないんだ」
「お前もか、先に決めたことを反故にする気か?何のための取り決めだ!その時の気分で勝手を言うんじゃない!方針に従え!」
「意見を言っているだけじゃないか、何も危険な事をしようって言うんじゃない。本格的なアタックの前に下見をするだけだ」
「ちょっと、3人とも落ち着きなさいよ!鉄平も蓮もそんなに慌てなくてもいいでしょ!?玲司も落ち着いて!」
やっぱりこうなるか。俺達の考えが軽いのは理解しているが、それでも行きたい。危険でも良い、稼ぎが少なくても良い、ただ自分の思うように戦って生きていたい。玲司の様に賢くやる気が始めから無いんだ。悪いがここは押し切らせてもらう、賭けているのは自分の命だ。俺は俺の思うようにやる。パーティで行かないならソロで行けばいい、それで死ぬのなら仕方ない。邪魔をするなら容赦しない。

「コラー!やめなさい!!」
兜の中でも響く大きな高い声。熱くなりかけた頭に冷水をかけらたようだ。
「社くん!雲野くん!ダンジョンが大好きなのは分かるけど約束を破るなんてカッコ悪いわよ!咲耶ちゃんも困ってるでしょ!2人とも普段ならこんな事にならないのにおかしくなってるよ!」
はっとなって咲耶を見たら少し涙目になっているのが見えた。俺は妹の命を預かっているのに、何を考えていたんだ。
「水島くん!確かに先に決めたことだけど、そんな言い方しちゃ駄目でしょ!みんな仲間なのに相談も出来ないんじゃ続かないよ!相手の気持を考えなきゃ駄目!!」
「……そうだな」

「仲直りしなさい!」
そんな子供みたいな。だが小さな身体から純粋な怒りを発するいいんちょには有無を言わせぬ迫力があった。
「玲司、悪かったな。装備付けたらついその気になって無理を言った」
「俺もだ、悪かった。少し変な感じになってた」
「蓮、鉄平。俺も悪かった。お前たちの気持ちは知っていた、もう少しだけ我慢してほしい」

俺達は立派な装備を身に付けたまま、情けない顔で謝罪しあった。

―――――――――――――

「私が止めたのに無視した事も謝ってね」
セリナさん、君も結構面倒くさいトコあるよね。セリナには適当に謝罪を済ませ、咲耶にも謝った。
「兄、普段と違う雰囲気がしたぞ。取り憑かれてたりしないか?」
「怖いこと言うなよ、ちょっと熱くなっただけだ」
そう答えたが、自分でも変だったと思う。怒りを掻き立てられるような?あの鎧、呪われてたりしないだろうな?

この日はこれで解散になった。帰りのバスの中ではパーティ外で下級下位ダンジョンに行くか相談したが、やはり土曜日まで待機と決まった。
怒ったいいんちょは頑なで厳しかったよ、でもやっぱりリーダーに選んで良かった。俺達のリーダーは何があってもいいんちょだぜ。

解散して帰宅中に咲耶が家の晩飯を断っていたのを思い出し、仕方ないので残った僅かな金でラーメンを食いに行こうと誘ったら無言で腹パンされた。中学生が和服で食いに行く店なんて無いよ?牛丼を提案したらまた殴られそうだったのでテイクアウトに切り替えた。牛丼を買って家で食べるってなんとなくシュールな気がする。しない?

翌日。
学校も終わって帰宅したが、今度の土曜日までやれる事はない。咲耶に付き合って狸ダンジョンに行ってもいいが咲耶のレベルアップまでは至らないだろう。どうせゴブダンジョンでパーティを組んで強い魔物を倒せばすぐに上がるのであまり意味がない。
結局ネットで盾術の解説動画を見て練習することにした。盾に見立てた鍋蓋を構えて動き回る俺はさぞ滑稽だっただろう。
借金をした事は両親に黙っておいた。借金と言っても書類も無い口約束だ。探索者としての今後を考えないなら逃げたって平気だろう。
だけどそんな事はどうだっていい、俺は自分の装備を身に着け、仲間とパーティを組み、命を賭けて戦うんだ。稼ぎなんて生きていけたら良いよ、上手く行けば勝手に付いてくる。
今はゴブダンジョンへの準備に集中する。やれる事はなんだってやるさ。

「兄、スキルの練習に付き合え」
「え?それって……」
「軽い切り傷しか治したことがない。打撲と骨折と深い切り傷、それに腹を下した場合も試したいな。安心して良い、母がポーションを手配してくれた」
ニッコリ凄惨な笑顔の咲耶。どうしてこんな子になってしまったんだ。あの優しくて礼儀正しいお姫様はどこにいっちゃったの?
「待て咲耶、お前もしかして勘違いして恥をかいたことを恨みに思ってるんじゃないだろうな」
「………」
え、何その顔。ちょっと待って怖い怖い。
「お兄様、これはただの練習です。お兄様は何も悪くありません。私の恥は私が愚かだった故です。愚かな行いには報いがある。当然ですよね?」
俺の優秀な頭脳が警鐘を鳴らす。言葉遣いが変わっているのはヤバイ。だが俺は探索者として、兄として、逃げることはしない!
「お腹下すのだけは勘弁してください」
「もう飲ませました」
駄目みたいですね。
咲耶の回復魔法は怪我にしか効果が無かった。

悲しい出来事もあったけど土曜日まで平和に過ごした。
今日はいよいよゴブダンジョンデビューだ。探索者としての闘争を初めて経験する事になる。
準備期間は長過ぎるように感じたが、今になると全然足りていない気もする。そもそもまともに戦闘したことが無いんだからそれを図るのは難しい。やっぱり一度行ってみる提案自体は間違ってなかったかもな。
自分が浮ついているのを感じる。探索者として覚悟なんて出来てない。ただ自分の命が失われる覚悟だけは出来た。俺はパーティーの盾役だ、恐れることだけはしないと決めた。

「さあ、行こうか」

――――――――――――――――――

「おはよう、死ぬには良い日だ」
「縁起の悪い事を言うんじゃないわよ!」
朝からいいんちょのローキックをいただいた。へへっ得したぜ。
午前7時30分、駅前で集合してバスで王仁のゴブダンジョンへ向かう。ゴブダンジョンは下級クラスの中での上位ダンジョン。中級ダンジョンに挑戦する前の関門だ。俺達は下級の下位と中位を飛ばして上位に挑戦する。

「今日の挑戦は俺達の浮ついた気持ちを引き締める為だ。危険を肌で感じて今後に活かせればいい。今日の目標は無い、問題が無ければ昼に一度引き上げる。その後は状況次第だ。辛かったら無理はするな。下位ダンジョンから通ってもいいし、挫折して探索者を諦めるには十分間に合う」
玲司が訓示を垂れる。俺と蓮は引くことを考えていない、咲耶は澄まし顔で聞いているが俺と同じ感じがする。いいんちょだけが真面目に聞いていたが、そこはリーダーが声をかけるべきだと思う。

ダンジョン前に着き、装備店で着替えた。しっかり稼いでここに預けて帰らないとな。
「しっかり稼いできなよ!」
激励だと思っておこう。

午前8時20分。いよいよダンジョンに入る。先に来たPTが侵入の申請をしていたので並ぶ。全員顔に緊張が浮かんでいる、俺だってそうだろう。初級ダンジョンで簡単な狩りはしたが殺し合いなんてしたことはない。このダンジョンの中では魔物が俺達を殺そうと武器を用意しており、俺達はその魔物を殺して稼ぐのだ。興奮しているのか怖いのか、自分でも良く分からなかった。

「おい、お前その鎧はどこで手に入れた」
声をかけられて振り向いたら同年代の男が後ろに並んでいた。白い立派な重鎧を装備していて、いかにも金をかけたリッチマンだ。
「そこの店で買っただけだが、何かあるのか」
「……チッ」
それで会話は終わった。
歳が知りたいな。俺達は無理してここに初挑戦だが、こいつは何度も通っているんだろうか?チラチラ盗み見たが隣のチンピラが睨んでくるので無視することにした。今はトラブルはごめんだ。
「終わった、入るぞ」
今はダンジョンに集中しよう。

ゴブダンジョンの入口は狸ダンジョンと同じ。古墳みたいに地面が盛り上がって洞窟の入口が開いている。中はぽつぽつと立つ柱と広い空洞が広がるタイプだ。見通しが良く開放感があるが、これだと視覚から飛んでくる矢に対応できないのが分かる。
とりあえず入口から少し離れ、柱を背に固まる。
「鉄平が先頭だ、斜め後ろに俺と蓮、更に斜め後ろに智子と社妹。接敵したらどの方向でも最初に鉄平を前に出す。攻撃開始は鉄平が前に出てからだ。攻撃対象は攻撃しやすい相手で良い、攻撃の優先順位は前に居るメンバーからだ。」
これは前もって相談済みだ。今回はPTでの動きを確認する意味もあるので個人技は抑制する。

「来たぜ!正面からだ!」
正面からゴブリンパーティーが向かってくる。こちらと同じ6匹、剣が3槍が3だ。
大盾を構えて正面を見据えた。こいつらは一番近い人間を襲う、俺が受け止めれば後ろの4人が倒してくれるはずだ。

「左からも来ています!」
「右からも来てるよ!」
なんだそりゃ!なんでいきなりこんなことになるんだよ!どうする!?
「鉄平だけ残して後ろに下がるぞ!走れ!」
「えぇ!?社君はどうするのよ!」
「鉄平に攻撃は通らない、さっさと距離を取るぞ!」
「兄!耐えろ!」
「鉄平、お前なら平気だろ」
「すぐに助けるからね!」

みんなが走って距離を取ったことでゴブリンの目標が俺に集中した。
3方向から襲われて慌ててしまったが、こうなると落ち着いてきた。俺は自分の身だけを守ればいい。さっきまでと比べて随分簡単に思えた。むしろ下がったみんなが他PTに襲われないか心配だ。
落ち着いて観察する、正面には剣3槍3、広い空洞なので接敵までまだ10秒はある。右からは杖2弓2剣2、左からは杖2弓2槍2、これは同時に襲われたんじゃなく同一PTなのかもしれない。弓の射程は100m程と聞いている、多分既に射程に入っていると思うがまだ撃ってこない、タイミングを合わせているのか?頭が悪いと聞いていたのにな。杖の射程は20m程しかないのでそこで狙われると思う。
ゴブリン共がギャッギャと騒いでいるが、俺は逆に落ち着いていた。何だこの小さく馬鹿な魔物は、こんな奴らの攻撃が俺に届くわけがないとスキルが教えてくれる。
杖の射程が近づき、俺はバイザーを下ろした。ガシャンと良い音が鳴り、唯一の弱点も消えた。

『ギャアウ!』
杖と弓ゴブリンが立ち止まり集中砲火を浴びせてくる。両サイドからの攻撃なので盾は使えない、俺は棒立ちでそのまま受けた。カンカンと矢を弾く音が響き、火の玉が直撃して小さな爆発が起こる。鎧の表面を撫でる非力な感覚に俺は失望した。
「今だ撃て!」
立ち止まって攻撃をした杖と弓ゴブにボーガンの矢とスキルの刃が飛ぶ、立ち止まっていたゴブリンは良い的でしか無かったようだ。命中してあっさりと消えていく。
『ギャギャ!』
近接ゴブリンが3方から同時攻撃を仕掛けてくる。馬鹿正直に受ける必要もない、近づいたところで3歩バックステップするだけで前方向に固まる。少しずれて包囲すればいいのに、まっすぐ駆けてくる所は本当に知恵が足りない。襲撃や弓ゴブの動きに比べて奇妙なチグハグさを感じた。

「オラァ!!」
突き出された剣と槍を一度に打ち払い弾き飛ばした。体制を崩したゴブリンに追撃すべく腰に備えていたナイフを抜く。
「くらえ!」
ナイフを突き刺そうした瞬間!
「な、なんだ!?」
体が動かない!腕も上げられず呼吸が苦しい!毒か!?たまらず倒れ込んでしまった。
「お兄様!?」
「鉄平!そのまま倒れてろ!」
咲耶と蓮の焦った声が聞こえるが、動きたくても動けねぇよ!
なんとか首を回して見上げると、ゴブリンに矢が突き刺さり蓮のスキルで切り裂かれるのが見えた。
「シャア!」
更に玲司の指先からそれぞれ糸の様な物が伸び、ゴブリンを切り裂くのが見えた。畜生!お前もスキル取ってたのか!カッコイイじゃねぇか!それの練習の為に今日まで引き伸ばしたんじゃないだろうな!

「お兄様!お怪我は!?」
あぁ、咲耶は毒は治せないんだったな。すまん、俺はここまでかもしれん。
「どこをやられた!」
「分からん、すまんが起こしてくれ」
3人がかりで起こしてくれて座り込んだ。フルフェイスガードを外して心配そうに覗き込む咲耶の方を見た瞬間、その後ろで鈍く光る矢が飛んでくるのが見えた!
「伏せろ!」
飛び上がってなんとか腕で矢を弾くことに成功した、こんな所で装備を外すんじゃない!
「動けるじゃねぇか!」
あ、ほんとだ。いやそれよりあのゴブリンを倒そう。
慌ててそちらに目を向けるとゴブリンの首が後ろから斬り飛ばされるところだった。

「なんだ、平気そうじゃないか」
誰だ?手伝ってくれたのか?ダンジョンで声を掛けられるのは初めてだ。
「お前、入口で会ったやつか?」
「おい!気安く喋ってんじゃねぇぞ!礼をしろ!」
隣のチンピラがいきなりブチ切れてきた、なんだこいつやべぇな。
「だまれ、行くぞ」
それだけで連中は去っていった。ややこしい事にならなくて良かったが一体何なんだ?

「兄、助かった。動けるのか?」
「鉄平、平気なのか?」
「あぁ、守らなきゃと思ったら体が軽くなったんだよ。なぁこれ、もしかしてさ」
「攻撃する時にスキルが切れちゃったんじゃないの?」
凄くそんな気がします。
「待て、今は一度立て直そう。魔石を回収したら出るぞ」

俺達の短い初陣は終わった。

―――――――――――

「疲れた、早すぎるがどこかでお茶にしよう」
19個の魔石を換金して19万円になった。流石にお高い。魔石は殆ど発電に使っているらしく、需要の尽きない高エネルギー体だ。
24時間営業のコーヒー店で俺達は鎧も脱がずヘルメットだけを外して息を吐いた。

「やっぱり全然違うな」

狸ダンジョンとは違う本当の殺し合い。ゴブ達は小さく頭が悪く攻撃力も低かったが、その殺意は俺達の精神を大幅に削っていた。
「感想会は今日が終わってからでいい。まずは攻略についての意見を話そう。攻撃はしっかり当たっていたな。ゴブリンの耐久は低かったので威力には問題ないだろう。蓮はその装備で不安はなかったか?鉄平は結局ダメージは無いのか?」

「そうだ、咲耶もいいんちょもボーガンなんて初めてだろ?良く当てたな」
「ふふん!当然だわ!しっかり狙ったもの!」
「兄、ダンジョンの中は無風だしボーガンはスコープ付きで手入れも万全だった。25m以内なら命中率は高いと教わったぞ。相手が止まっていればだがな」
ふむ、流石ゴブダンジョン前でレンタルしている専用ボーガンだ。ゴブ達の射程、耐久、数、習性、それらを考慮した性能に調整してあるんだな。

「俺はあの暗さでは矢に警戒が必要だと感じたな。速度は無かったが死角から飛んできたら反応出来るか分からん。だが重い装備だと攻撃に支障が大きい」
蓮の攻撃はスキル【襲爪】で斬撃を飛ばす物だ。近接攻撃も出来るがゴブダンジョンでは遠距離で十分始末出来るので出番が無い。鋭く蹴り出す必要があるので重いと疲労が大きいだろう。

「俺は全くダメージが無かった。転んだ時に痛かった程度だな。正直言うと攻撃が弱すぎてガッカリしたんだ」
「ガッカリ?」
「あぁ、いや、忘れてくれ。とにかくあれじゃいくら攻撃されても何も無い。こっちも攻撃できないんだけどな」
「鉄平、お前の仕事は仲間を守ることだ。自分が安全であるなら全力で仲間を守ってくれ」
「そうだな。がんばるよ」
正直言って物足りない、もっと強烈な攻撃を受け止めたい、苛烈な炎で焼かれたい。だが仲間を守ることは俺のイメージにも合う。よし!ピンチには必ず駆けつけて誰も傷つけない最強の騎士になろうじゃないか!

「差し当たっての問題は蓮の防御問題だな。それと今回は長射程からの射撃がなかったが、これの対策も必要だ」
あ~、100mも先からチクチクやられたらたまらんな。他のPTはどうしてるんだろう?
「他のPTは無視して進んでいる。威力は無いので装備で弾く」
「なにそれ!危なくないのかしら?」
「さあな、だがご覧の通りゴブダンジョンは魔物の密度が高い。1匹を追い回しているより寄ってくるやつを捌いて行く方が効率がいいんだろう」
「俺の【襲爪】は一応届くぜ。一撃で倒せるかは分からんが」
「【鳥糸】は届かないな、中型のボーガンなら届くだろうが取り回しが邪魔だな」
ソッカー、てそうじゃない!鳥糸ってさっき使ってたやつか!もしかしてスキル玉を?
「夜に狸ダンジョンでレベルアップしてある。お前らが先にレベルアップしているのにそのままの訳が無いだろう。最大でも20m程度の中距離攻撃だ、詳細はまた後でな」
イケメンには格好良いスキルが配られるってことね、知ってました。超悔しいです。

「鉄平が攻撃できないのはどうすんだ?お前もアーマーにするか?」
「」

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