今までコンテストとか完全に無縁な底辺だったわけですが、最終選考に残ったことで可能性は0じゃ無いのかなって思うようになりました。
という訳で、どうせ新作を作るならコンテストに合わせようと考えてほんの数話ですがコンテスト開始まで書き溜めてます。
カクヨムにしか保存していない現状はなんとかしたいと思いつつ、ここにそのままコピペすると更新出来なかったりする謎仕様。とりあえず新作くらいはここにも保存していこうと思います。
我に栄光の道を!
第1話 光の道へ
街は祭りに沸いていた。石畳には旗がはためき、人々は浮かれて笑っている。
領主の娘の結婚お披露目らしい。それ以上のことは知らない。
スラムのガキでしかない俺には、表通りのことなど知ったことじゃない。小さな体で暴力に抗い、盗みを成功させて今日を生きる。それが俺だ。
「今日は稼ぎ時だぜ、しっかりやれよネス」
兄貴分のヴィンが小さく笑う。俺もニヤリと返した。こんな日は仕事をやりやすい、逃げるのも簡単だ。
路地から身を低くして果物を売る露店に近づく。俺は小さいから、露店の台にでも簡単に隠れられる。
店主が客の対応をしだしたのを見計らって食い物を掴み取った。
「あっ!またこの野郎!」
「へっ!馬鹿が!いただいていくぜ!」
声を上げるがどうにも出来ない。俺は両手でしっかり抱え込んで華麗に逃げた。
俺が逃げている間にヴィンは商品じゃなく金を盗んでいるはずだ。今日の稼ぎは上々。
――馬鹿だなあいつら。こんな簡単に盗まれるなんて。
――兄貴はすごい。盗みを教えてくれたのも兄貴だ。俺もああなりたい。
あっさりと逃げ切り、スラムの路地で成果を確認した。
今回手に入れたのは果実が5個。後はヴィンからの分前で金が入るはず。まだ6歳程度らしい俺は、果物2個あれば1日は飢えずに生きられる。
ヴィンが合流するのを待ちながら果物を頬張った。
すると、大通りの方から大きな歓声が聞こえる。誰か掴まったか?と焦ったが、どうやら祭りのメインが現れたらしい。
ボロい木箱の上に乗り、建物の隙間からパレードを盗み見た。
白く立派な馬が引くのは豪華な馬車。
その上には見たこともないほど美しい姫。そして自信満々に手を振る男。
人々の歓声が耳に入らないくらい、二人の姿だけが光って見えた。胸の奥に、暗い気持ちがじわっと広がる。
嫌なものを見た。余りに遠い光と幸福。あんなものは……偽物だ。人ってのはもっとどろどろした物だろう?見せかけだけの、嘘っぱちだ。
そんな風に毒吐きながらも、その光景は俺の心に焼き付いた。鮮烈な憧れとして。
◇◆◇◆◇
パレードから二か月ほど後、冷たい雨の降る日のことだった。
「ヴィン……」
ヴィンは、スラムの路地でボロ雑巾の様になって転がっていた。
動かない。朝まではいつも通りだったのに。
盗みに失敗して掴まった。後は好き勝手にリンチされ、殴り殺されたわけだ。
俺はその姿を見て、自分の未来を知った。
――これじゃ駄目だ。
ヴィンみたいにならなくても、せいぜいスラムの上役が精一杯。それじゃ駄目なんだ。
あの日見たパレード――あの光の道。美しい姫を手に入れ、多くの人に祝福されるまぶしい世界。あれこそ俺にふさわしい場所だ。
このドブで這いつくばって生きる価値なんて、どこにもない。
どうすればあちら側に行ける?子供の俺が大人になるまで、あと何年ここで泥を啜ればいい?
そうだ、子供だ。子供が働いているのを見たことがあるぞ。
街で洗濯の仕事をしていた。子供の力では簡単な仕事じゃないのに、孤児院の子供は一日働かせてパン一つだと聞いて笑っていたっけ。
孤児院なら俺も入れるかもしれない。俺だってまだ子供だ。あいつらと何も変わらないだろう。
賃金とも言えないような安い報酬で働く、哀れで惨めな孤児。
だがそれが、今の俺には光の道の入口に見えた。
◇◆◇◆◇
ヴィンの体にそっと触れて別れを済ませた。
孤児院に行くなら今だ。雨が降っていて哀れを誘いやすい。
それに今なら最低限の体力もある。ヴィンを失った俺が生きるためには、今まで以上の危険に身を晒すしかない。ぼやぼやしていたら動けなくなる。
俺はすぐに孤児院に向かった。
孤児院はスラムの近く、川沿いの小道を少し登ったところにある。
雨に濡れて黒光りする古い小さな家だ。
金が無いのは見れば分かる。子供だからと誰でもってわけには行かないだろう。
俺は真面目で善良な子供だ。寒く、不安で、哀れを誘う。
スラムのガキ、ネスはもう居なくなる。俺は……レオンハルトだ。未来の英雄レオンハルト。スラムに捨てる様な親じゃない、まともな親から生まれた子供。
トントントン。控えめに扉をノックした。
肩をすくめ、片方の手でもう片方の袖を握る。俺は弱い、保護が必要だ。分かるだろう?
少し待って、安っぽく軋む音を立てて扉が開いた。現れたのは老女。厳しい目つきで俺を品定めしている。
「何の用ですか?こんな雨の日に」
腕を組んで見下ろしてくる。やはり入れたくないか。
俺は小さく肩をすくめ、声を震わせて答える。
「あ、あの…すみません。家がなくて…雨に濡れてしまって…」
足元の泥を見せ、濡れた袖を握りしめる。細かい仕草も忘れない。哀れな孤児を助けろ。それがお前の役割だろう。
老女は眉をひそめ、俺を見下ろす。
「ふぅ……ここはもういっぱいです。他所へ行きなさい」
お前の都合など知るか。それに他所など知らない。
俺は震える声で、さらに弱々しく呟く。
「そ、そうですか……。あの、今日だけでも……僕……ちゃんと働きます。掃除も洗濯も……ちゃんとできます」
精一杯の演技だ。これで駄目なら、こいつを殴り倒してから食料を奪って他を探すしかない。今は余裕が無いんだ。
だが老女は諦めたような深い溜め息をついた。
「仕方ありません。今日だけですよ。中で体を温めなさい」
「は、はい!ありがとうございます!」
今日だけ、そんな言葉に意味はない。明日も同じことを言うだろう。
こうして俺は孤児院に入った。
俺はここから這い上がる。今日、その一歩目を刻み込んだ。
コメント